LOGIN「れ、蓮。お前は何をしてるの?」
「見て分からないか? お前の胸を揉んでる」
蓮は淡々と答えた。
「あのノートは本物だったんだな。本当に智也が女になっている」
馬乗りになってまだ胸を揉む幼馴染に呆れて、私は呟いた。
「例のノートの真偽を私の胸で確認するのはやめてくれない? それに、この異世界にいること自体が、あのノートが本物だって事を示していると思うけど?」
蓮は胸を確認し終わると、今度は私のスカートの中に手を入れてきた。
「おいっ!」
「確認、確認」
「確認って……お前、森で裸体の私を見ているだろうが!」
「自
智也は力なくそのまま地面に座り込んでしまった。自分の無力さが口惜しかった。誰も守ることができないこの身が疎ましかった。それでも何かをしたくて、智也は自分に宿った青い炎の力を借り、蓮にテレパシーで話しかけていた。塔の最上階で僅かに感じる、蓮が放つ青い炎のオーラに向かって。(蓮、聞こえている? お願いだから、自分を傷つけるような行為はやめて。)(蓮、私やモモのことで責任を感じることなんてないんだからね。異世界から脱出する方法だって、カインの呪いを解く方法だって、他にもあると思うの。だから、一緒に探そうよ。蓮がやりたくないことをしちゃ駄目だよ。)(蓮が変わってしまいそうで……私、怖いよ。蓮、返事をして。お願いだから。)テレパシーで話しかけると、僅かに蓮の纏う青いオーラが乱れたのが分かった。しかしすぐに、蓮が魔法で塔の最上階周辺に強力な魔法の防壁を張ったことが感じ取れた。そのせいで、蓮の気配をまったく感じられなくなってしまった。「私が……テレパシーで話しかけたから?」テレパシーの声に動揺した蓮が、強い魔法の防壁を最上階に張ったのは明らかだった。しかも彼の心の乱れをあらわすように、塔の最上部の魔法の防壁は暴走したようにどんどん巨大になり、智也の周りを覆っていた防壁まで吸収してしまった。きっとそのことに、蓮は気が付いていない。それほどに彼は、心を動揺させる何かを今しているのだ。身を守る防壁を失ったまま、智也は不気味な牢獄塔の前でただ立ち尽くすしかなかった。その時だった。不意に背後から車輪の軋む音が近づいてくるのに気づいた。智也は立ち上がり、その正体を確かめようとした。それは、牢獄塔へ囚人を運び込む護送車だった。「おい、見てみろよ。こんなところに女がいるぞ。」「お、本当だ。しかもいい女じゃないか!!」馬が引く護送車を運転していたむさ苦しい男が二人、木の門の前で運転席から降りてきた。その目には好奇の色が浮かんでいた。「なあ、こんなところにいる女ってことは、牢獄塔に投獄された男の恋人とかじゃないか?」「へー、だったら……囚人の恋人を輪姦しても誰も文句いわねーんでないの?」「おいおい、仕事はどうするんだよ。囚人を護送しないと駄目だろ?」「でも、囚人っていっても一人だし護送車に入れていれば大丈夫だろう。塔に入って投獄している内に、女に逃げられたらつまらな
智也は『トモ』の祖母に視線を向け、口を開いた。「『トモ』はカインに殺された時に、彼に呪いを掛けたよね。その呪いを解く方法を私は聞きに来たの。ギルミット族は呪いを掛けるのが得意だったのでしょ? だったら、呪いを解く方法も確立されていたはずだよね。教えて欲しいの、カインの呪いを解く方法を。」老婆はゆっくりと口を開いた。「わしは、この牢獄塔に囚われて以来、王宮の者に数々な拷問を受けてきた。それもこれも、次期王位のカインの呪いを解く方法を聞き出す為じゃった。」老婆の声に苦々しさが滲んだ。「その拷問で、この目もやられ、足も動かなくなった。それでも、わしは一言も話さなかった。『トモ』がその命を削ってカインに掛けた呪いじゃ。成就させてやりたいではないか。いまさら、わしが何か話すとでも思ったのか?」『トモ』の祖母はそう言うと、見えぬ目で視線を智也から蓮に移し、続けた。「じゃが……『トモ』の生まれ変わりであるレンになら、わしの知識を与えてやってもよい。『トモ』は、わしらの直系の先祖が書いた禁断の魔法の書の中の一つの魔法陣を使ったことだけは間違いない。」老婆は少し間を置いた。「だが、その書物には、呪いの解き方は載っておらなんだ。正直に言ってしまうとな、わしにも『トモ』が掛けた呪いを解く方法が解らんのじゃ。じゃが、その魔法の書を全て読み解く力を有するものであれば、呪いを解く魔法陣を生み出すことも可能だろう。レン、お前が最強の魔法使いならばできるはずじゃ。」「その禁断の魔法の書はどこにあるんだ、ばあさん?」蓮が聞くと、老婆は僅かに動く指で己の頭を指差した。「魔法の書はもう燃やしてこの世には無い。だが、書物に書かれた文章は一文一句違わず全てわしの脳の奥深くに封印してある。それを全てお前にやろう、レンよ。」老婆の声が低くなった。「封印を解く方法は簡単じゃ。わしの脳を喰らうことじゃ。それで、封印は解かれお前に知識が渡る。」「脳を喰らうって……それって、比喩だよね? ねえ、蓮……そうだよね?」智也は不安になって蓮の方を見て口を開いた。蓮は智也の質問には答えず、真剣な表情で石の椅子に縛り付けられた老婆を見つめていた。やがて、何かを自らに納得させるようにゆっくりと目を閉じ、そして目を見開いた時には、智也が見たこともないような恐ろしい表情をしていた。「蓮!!」智也
「そうじゃ。王宮への復讐の為に『トモ』はアーサーに近づいた。」老婆は淡々と語り始めた。「幼いアーサーは、さらに年下の『トモ』に警戒心など抱かなかった。アーサーは王宮の息苦しい生活に飽き飽きしていたのだろうな。『トモ』と街を探索することに夢中になり毎日のように王宮から抜け出しておった。そして、少女と逢ううちにいつしか『トモ』に恋心を抱くようになった。」老婆の声が少し低くなった。「『トモ』はその想いを利用した。魔法でアーサーの意識を朦朧とさせると、自宅に誘い込みそして、幼い身で『トモ』はアーサーと肌を合わせたのじゃ。」アーサーの初恋を、『トモ』が王家への復讐のために利用した。『トモ』はアーサーに処女を捧げてでも、彼の心を手放したくなかったのだ。 その事実が智也の心を軋ませ、痛くさせた。「じゃが、王宮のアーサーの護衛をしていた者たちは『トモ』に不審を抱き、二人を引き剥がそうとしたんじゃ。」老婆は続けた。「『トモ』は焦った。そして、アーサーにねだったのだ。『私を、あなたの契約魔法使いにして欲しい。あなたと離れたくないから。』とね。アーサーも彼女と離れたくなかった。周りから引き裂かれない方法は、『トモ』を自分の契約魔法使いにする方法だけだった。」智也は気になっていたことを、老婆に尋ねた。「彼女は……『トモ』はアーサーの事を愛してはいなかったの? 彼の事を好きではなかったの?」老婆はそっと笑って口を開いた。「いや……『トモ』もただの少女の部分があってねぇ。」老婆の表情がわずかに柔らかくなった。「あの子も処女を捧げたアーサーに、心を惹かれるようになっていった。彼の契約魔法使いとして王宮に上がると、『トモ』は別の想いを抱くようになった。王宮でのアーサーの立場はとても弱くいつも嫌がらせにあっていた。『トモ』は想いを寄せるアーサーに王位を継いで欲しいと願うようになった。そして、できれば彼と結婚したいと想うようになった。」老婆は静かに言った。「『トモ』は王位を継ぐ者にギルミット一族の血を混じらせることで、王家を乗っ取り復讐を果たすのだと私には言っておったが、そんなのは嘘じゃ。あの子は……本気でアーサーを愛してしまったのだろうのう。」「『トモ』はアーサーを心から愛していたんだね!!」智也は、何故だかすごくほっとした。アーサーと『トモ』の関係が復讐だ
老婆の言葉に蓮の顔がぱっと輝き、笑顔を見せた。しかしその笑顔もすぐに苦悩の表情に変わり、彼は頭を抱えて呟いた。「つまり……ノートの魔法陣と契約した俺なら、魔法陣の力を使って元の世界へ繋がる道を開き、二人を帰らせることができるっていうことだよな?」蓮は少し間を置いて、続けた。「……でも、俺には魔法陣を自在に操る知識なんてないっての。今から魔法陣の勉強をしろってか……」「最強の魔法使いとなったレンなら、あの魔法陣を自在に操ることも不可能ではあるまい。」老婆は静かに言った。「それに、お前は私の孫の『トモ』でもある。わしがお前にギルミット族の魔法陣の知識を分け与えてやってもよいぞ。」「全ての元凶のあんたから魔法陣の講義を受ける気にはならないな。」蓮が拗ねた声で答えると、老婆は体を揺すりながら不気味な笑い声を上げた。「ふっふっふっ……講義など受けずとも知識は得られる。お前の魔法でわしの脳を喰らえばいい。脳にはギルミットの魔法陣の知識が詰まっておる。女の私は魔力は男より劣ったが、男以上に魔法の勉強は欠かさなかった。」蓮は老婆の言葉を聞き、急に真面目な顔になった。「そうだな、あんたの知識を魔法で頂くとするか。だが、それは用事を済ませた後でいい。」蓮は智也の方を向いた。「智也、お前も『トモ』の祖母に聞きたいことがあったのだろう?」(そうだった……)智也は自分でも、この老婆に聞きたいことがあったことを思い出した。 孫の『トモ』がどんな少女だったのか。『トモ』とアーサーはどうやって知り合い、魔法使いの契約を交わしたのか。そして、二人はいつから愛し合うようになったのか……。 そんなことを聞いても意味がないのに、と智也は自分を責めた。 (そうだ。私は……『トモ』がカインに掛けた呪いの解き方を聞くために、ここに来たんだ)「智也、この際聞きたいことは全部聞いておいたほうがいい……心残りを作るな。」蓮が智也の心の葛藤を魔法で読み取り、アドバイスしてくれた。智也は蓮をちらりと見て頷いた。そうだ、全部聞くことにしよう。 智也はごくりと唾を飲み込み、口を開いた。「聞かせて欲しいの、『トモ』の事を。彼女は、どんな少女だった? どうやって、アーサーと知り合い契約魔法使いになったのか……そして、二人はいつから愛し合うようになったのか。教えて、『トモ』のお
(全ての元凶が、この年老いたおばあさんだっていうの?)智也は信じられなかった。『トモ』の祖母からは強い魔力は感じられないのに、彼女が自分たちをこの異世界に召還したなど、とても現実味がなかった。老婆はしわがれた声のまま、それでも『トモ』の生まれ変わりである蓮に出会えたことに興奮したのか、多弁に語り始めた。「ああ、わしじゃ。孫の『トモ』が死んだと知った時、わしは異世界で生まれ変わるだろう『トモ』をこの世界に取り戻したくて、禁忌の魔法陣が刻まれたノートを異世界に魔法で送り込んだ。」老婆は少し息を継いで続けた。「禁断の行為と分っていたが、唯一の身内だった『トモ』を失うことはわしには耐えがたかった。それに、あの子はギルミットの血をひく最後の子じゃ。禁断の魔法陣と契約し不死の身を得た『トモ』の生まれ変わりに、ギルミット一族の恨みを晴らして欲しかった。王国を葬ってくれることを願った。」老婆の声がわずかに震えた。「だがノートを異世界に送っても……『トモ』は帰っては来なかった。わしは、その後王宮の兵に捕まりこの牢獄塔に閉じ込められ、随分月日がたってしもうた。もうとっくに魔法陣の力は消え失せていると思っておったが、今になって『トモ』の生まれ変わりが召還されるとは思いもしなかった。……お帰り、我が孫の『トモ』よ。」蓮は語気を強めて口を開いた。「俺は『トモ』じゃない、蓮だ!!」蓮は一瞬息を吐き、続けた。「俺があんたに会いに来たのは、身内の再会を喜び合う為じゃない!!禁忌の魔法陣が刻まれたノートに文章を書き込んだ俺が契約で縛られるのなら仕方が無い……諦めもする。だが、俺には守らないといけない人間が居るんだ!!」蓮の声が大きく響いた。「教えろ、俺が巻き込んで連れて来てしまった智也とモモは元の世界に帰れるのか!?」智也は胸が痛くなった。蓮は責任を感じているのだ。もう元の世界に帰れないかもしれない自身の身などかまわず、自分と妹のことを心配してくれている。その想いが痛いほど伝わってきた。老婆は、見えぬ白濁した目で智也の顔をちらりと見ながら口を開いた。「お前が異世界から連れて来たものとはその者か? それで、レンはあのノートにどんな文章を書き込んだのじゃ?」「ん……それは……」不意に蓮が言い淀んだ。確かに、言いにくい内容だった。あの時はノートを小学生の悪戯程度にしか
「智也、この異世界と俺たちが生まれ育った世界は細い道で繋がっているんだ。」智也の不安そうな顔を見て、蓮はそっと肩を抱きよせた。そして、智也にも分かりやすいように丁寧に説明を続けた。「ギルミット人は、魔力に長けた一族だった。その中でも強力な魔力を持つ魔法使いを何人も輩出している。」蓮は少し間を置いてから、先を続けた。「彼らの内の誰かが、この世界と俺たちが生まれた世界がへその緒のような細い道で繋がっている事を知ったのだろう。そして、この世界で死んだ人間の魂はその細い道を渡り俺たちの世界に辿りつき生まれ変わり、同様に俺たちの世界で死んだ人間の魂もまた細い道を辿ってこちらの世界に辿りつき生まれ変わる事に気がついた。それが異世界を巡る輪廻転生信仰の始まりかな?」蓮の話で、ギルミット一族が信じていた異世界の輪廻転生信仰はなんとなく理解できた。 しかし、蓮が『トモ』の生まれ変わりだという部分になると、智也には容易に受け入れられなかった。(もし私が『トモ』の生まれ変わりなら……アーサーに心惹かれたことも、彼が私を『トモ』と呼んだことも、全部納得がいくのに……)密かにそう思ってしまう自分がいた。『トモ』は乙女な魔法使いの少女だったはずだ。同じ魔法使いとはいえ、蓮の肉体は逞しく、抱きしめられると元男の智也でも胸がキュンとなるほど胸板が厚く頼もしい男だった。しかもペニスは大きく、少し入れるだけで火傷をするほど激しいセックスをするような男が『トモ』の生まれ変わりだなんて……。「蓮が『トモ』の生まれ変わりだなんて、やっぱイメージが合わないーーーー!! 蓮の勘違いじゃないの??」思わず智也は叫んでしまった。蓮は智也の思考を読んだのか、にやっと笑ったが、それも一瞬のことだった。蓮は石の椅子に鎖で縛り付けられた老婆を、柵越しに冷たい目で見ながら口を開いた。「俺も勘違いだと思いたいよ。異世界で生まれ変わった人間を魔法で元の世界に召還することは、ギルミット一族でも輪廻の輪を乱す禁忌として禁止されていたと書物に書いてあった。」蓮は淡々と続けた。「一度、輪廻の輪を切られた人間は魂の行き場を失い、もう二度と転生できないらしい。しかも、輪廻の輪から外れた人間は自ら命を断つ以外には死ねない体になると文献で読んだぞ。どこまで本当の話か分らないが……つまり俺は、人類憧れの不老不死にな